(報告)2014年度臨床環境学コンサルティングファーム活動報告会
日時: | 2015年4月21日(火)15:00 – 17:00 |
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場所: | 愛知県名古屋市 |
臨床環境学コンサルティングファームでは、以下のとおり2014年4月から始まった臨床環境学コンサルティングファームによる地域と連携した研究・社会実験の成果を報告・共有し、参加者の方々と意見交換を行いました。
日時:2015年4月21日(火)15:00 - 17:00
会場:環境総合館 1階 レクチャーホール
プログラム:
・臨床環境学コンサルティングファームの概要
・2014年度社会連携研究・事業(10件)の成果報告
・2015年度の社会連携研究・事業紹介と参加者募集
・意見交換
2014年度 臨床環境学コンサルティングファーム 社会連携プロジェクト:
●三重県松阪市との連携(その1):松阪市公共施設マネジメントに関する研究(谷口元、恒川和久、松岡利昌)
公共施設再配置コンサルティングを行い、地方自治体が抱える公共施設の老朽化問題に関して、中長期的な視野で対処していくために効果的なマネジメント手法を検討した。そのために公共施設白書に関する研究、公共施設再配置のロードマップ策定などを行った。
●岐阜県大垣市との連携(その1):緑の村公園リノベーション計画策定に関する研究(小松尚、高取千佳、山崎真理子、高野雅夫、吉田友紀子)
大垣市かみいしづ緑の村公園について、公園等の有益性、必要性を検証することにより、今後の公園の方向性、大胆な施設転換、別施設への転換を含め今後のあり方を検討した。特に、上石津地域の今後の30年先の計画を見据え、これからの施設のあるべき姿に関する検討を地域住民とともに開始した。
●岐阜県大垣市との連携(その2):「九里半街道牧田宿」における景観まちづくりの調査研究(小松尚、高取千佳、高野雅夫)
大垣市上石津町牧田地域(九里半街道牧田宿)の街道沿いに現存する歴史的建築物や景観資源の保存・活用を中心とした、景観に特化したまちづくりの将来像や方針、事業案等を地域住民と大学・行政が連携・協働して検討し、景観まちづくり方針を策定した。
●愛知県設楽町との連携:設楽町人口ビジョン・総合戦略策定支援調査研究(高野雅夫)
設楽町版地方創総合戦略を策定するための将来人口ビジョンとして年間5~10世帯の子育て世代移住者増によって人口面で持続可能な地域になりうることを明らかにした。その結果を住民意見交換会の場で提示し、住民の自治的な取り組みを促した。
●長野県南信州地域交通問題協議会との連携:南信州公共交通システム利便性向上およびブランド化に関する調査・研究(加藤博和、杉浦晶子)
第2次南信州地域公共交通総合連携計画に基づく南信州公共交通システムの利便性向上およびブランド化を実現するため、南信州地域へ適応した効率的・効果的な施策の検討・支援を行うとともに、施策の成果・改善についての検討を行った。
●愛知県豊山町地域公共交通会議との連携:地域公共交通網形成計画策定に関する研究(加藤博和、杉浦晶子)
豊山町内への民間航空機の生産・整備拠点の立地、県営名古屋空港の利用者の増加等に対応した地域公共交通網について研究を行い、地域公共交通網形成計画を策定した。そのために、公共交通の現況を把握するとともに、将来の需要を的確に予測して豊山町民にとって最適な地域公共交通網を研究した。
●三重県松阪市との連携(その2):松阪市バイオマス利活用推進調査研究(高野雅夫、福島和彦)
「松阪市バイオマス活用推進計画」の目標達成に向け、市内に賦存する森林バイオマスの活用率を向上させるための具体的手法を検討するとともに、廃棄物系バイオマスの有効利用に関する事業コンセプトを検討した。
●愛知県豊田市旭木の駅プロジェクトとの連携:「木の駅プロジェクト」と連携した短尺間伐材による建築物作成法の開発(古川忠稔、太幡英亮、吉田友紀子、高野雅夫)
全国でNPO等により展開されている「木の駅プロジェクト」(山主が自分の山を間伐して軽トラックで土場まで運搬すれば地域通貨を支払う仕組み)の事業性と持続可能性を向上させるため、豊田市旭地区で実施されている「旭木の駅プロジェクト」と連携して、2m程度の長さの材で、住宅、倉庫、休憩所などの建築物を建設するための手法を開発した。
●ブラザー工業株式会社との連携:「ブラザーの森郡上」環境保全活動に関する研究(夏原由博、中川弥智子、高野雅夫)
ブラザー工業が実施している郡上市のスキー場跡地での植樹などの環境保全活動に付加価値を与える方策を検討した。そのために、多様な生態系を考慮してめざすべき森林の姿を提案するとともに、社会貢献の立場から地元住民・行政・ブラザー社員のニーズを調査し、本活動の方向性を研究、提案した。
●小島プレス工業株式会社との連携:とよたエコフルタウンへのピコ水力発電装置設置(岡村鉄兵、高野雅夫)
産学官連携により、小型マイクロ水力発電装置をとよたエコフルタウン内のコンセプトガーデンに設置した。特に、低落差、少流量条件であっても効率の良い水車の設計と開放地点において防水性・耐久性の高い水力発電装置の開発を行った。
意見交換の概要:
- 持続可能な地域づくりのための研究と実践を、大学と地域とが一緒になって取り組むという臨床環境学コンサルティングファームの試みは、通常の経営コンサルティングとは異なった、明確な使命を持つ活動と思われる。ビジネスに長く携わったあとに現在大学院博士課程で研究する者として、大学教員にもっとこのような取り組みに参画してほしいと思う。
- 臨床環境学コンサルティングファームの活動は、大学改革として行っている。大学は本来、教育と研究とを通じて社会貢献してきたし、社会貢献しているはずの存在である。独立行政法人化後、国立大学法人に関して教育と研究に加えて新たに社会貢献も使命とすると明記されるようになったが、このように社会貢献という言葉を新たに書かなければならないということが、大学が社会のニーズに応えていないという現状の現われと思う。大学における教育と研究とが社会の深いところのニーズに応答するものに変容することで、「社会貢献」という言葉が大学の使命として顕わに記載されなくなることを目指している。
- 人口減少対策や地方創生のために国は1.8兆円を投じ、自治体が補助事業などを行う計画であると聞く。しかしお金や物で問題を解決しようとするやり方には限界があるのではないかと思う。臨床環境学コンサルティングファームは、より根本的で深い解決を与える方法なのではないかと期待している。
- 民間企業にいる者として、臨床環境学コンサルティングファームの企画・参画メンバーに民間企業(の職員)が(大学教員とともに)相談を受ける側に入る形があってもよいのではないかと感じた(企業が大学に相談に来て、大学に委託研究を発注し、発注者として参画するという現在の形だけでなく)。
- 環境問題に関心があり大学院修士課程に進学したばかりの学生として、今回の報告を聞き、市民や企業が自ら問題解決に取り組んでいる事例が多いことを知って可能性を感じた。人口シミュレーションなどの分析結果を大学から提示されて、市民や企業がその後どのように行動するのかが重要であり、したがって人々のモチベーションをどのように高められるかが臨床環境学コンサルティングファームの活動において鍵となるのではないかと感じた。
- 地域公共交通分野の活動報告に、新しい制度をつくることで、それが新しい活動を生んでいく、という試みがあった。地域での取り組みに基づいて国の制度を変え、その新しい制度に基づいて地域で新しい取り組みを行っていくという好循環を生み出すことが重要と感じた。
- 臨床環境学コンサルティングファームという仕組みを大学が設置したねらいの一つとして「地域から見たときのワンストップ相談窓口」ということが紹介されていた。実際には一つの自治体に対しても異なった部署に同じ大学の異なった専門分野の教員が委員などとして協力しているケースが多いが、教員どうしがその実態を知らず、名古屋大学による自治体支援の全体像は分かっていないことが多い。コンサルティングファームの活動とそうした個々の教員による社会連携活動との関係はどうなっているだろうか。=>環境学研究科といくつかの自治体とが連携協定を結んだため、特にそうした自治体に対してはコンサルティングファーム事務局が学内調整をしたうえで委員選定等の依頼に答えており、組織的に名古屋大学が自治体行政を支援する体制が整いつつある。
- 日本のほかの地域や諸外国における問題解決の好事例を大学教員等が住民等に紹介すると、対象地域の人々はそれを真似しようとするのだろうか、あるいは独自の解決策を模索しようとするのだろうか。=>真似をすることには意味がない(また、視察旅行で視察先が受け入れ負担のためにだめになるケースも散見される)。独自の解決策を創造するしか有効な方法はない。研究者が多数の事例を知っていることは必要。社会経済条件が類似のケースについて考察を深め、比較・整理し、成功・失敗の要因を探究することには意味がある。成功事例について、結果でなくプロセスに着目することには意味がある。成功事例から、ノウハウを得ることはできない(意味がない)が、勇気を得ることはできる。
- 名古屋大学教員として、今回紹介されたような大変地道で草の根レベルの取り組みと同時に、都市全体のコンサルティングを、例えばインフラストラクチャーの維持管理費用、災害対応、人々の生活/人生の質の観点からの人口縮減都市における「賢い縮退(スマートシュリンク)」の推進といったテーマで実施したい。