三重県松阪市、多気町を学生たちとともに訪問した。最近、どちらの町もバイオマスエネルギーを利用した大型の発電施設の建設や計画が進んでいる。一日目の夕方には、松阪市および多気町の担当職員に来ていただいて、その構想を語っていただいた。 松阪市では2007年から民間事業者によって木質バイオマスエネルギーの大規模な利用が実現している。松阪市は昔から製材業が盛んで、業者が共同で出資して大規模な製材工場、チップ工場、プレカット工場、木材市場が隣接する木材コンビナートを建設した。そこで生産される木質チップを利用して、木質バイオマス熱利用協同組合が大型ボイラーで蒸気をつくり、精油会社と食品加工会社にそれを供給している。稼働から6年以上、順調に熱の供給が行われている。
現在は工場で使い終わってもまだ残っている熱をさらに農業用ハウスに有効活用しようという事業が進んでおり、今年7月稼働をめざしてトマトなどを栽培する2haのハウスの建設が進んでいる。松阪市は木質バイオマスの熱利用という面では日本の最先端を行っていると言えるだろう。
それに加えて、新しく設立された三重エネウッド株式会社による木質バイオマス発電所の建設が進んでいる。2012年からはじまった再生可能エネルギー固定価格買取制度(Feed in Tariff, FIT)のもとで全量売電を目的とする発電所で、出力5,000kW、年間の木材利用量5.5万トンという相当な規模である。今年11月の稼働を目指して、建設は佳境にさしかかっている。
年間の燃料材利用量に対して、地元の松阪飯南森林組合が一年間に出材する量は2,000トン程度であり、桁がひとけたちがっている。発電所では、すでに一年分の燃料にあたる6万トンの材をストックしている。これは松阪市の土場まで運んでくればトンあたり7,500円で買うというやり方で買い集めたもので、周囲10府県から調達しているとのこと。相当遠方からやってきたものもあるようだ。発電所の向かい側にある広大な敷地に、山のようにうずたかく丸太が積みあげられていた。
地元松阪市内の森林からできるだけ燃料を供給し、地域の林業を活性化させたいところであるが、森林組合が出材するにはトンあたり1万円以上のコストがかかるため、現在の燃料材の買取価格では無理である。材の買取価格は、FITで定められている発電電力の売電単価で決まっているので、上がることはないだろう。
つまり、すぐ近くにどれだけ需要があるとしても、燃料用の材を伐採搬出するためだけに、作業道をつけ大型の林業機械を使って出材するというのはありえない。出てくるとしたら、従来どおり、柱や板になる高品質な材(A材という)や合板に加工される材(B材)を伐採搬出するときに、まがっていたり細かったり、虫が食っていたりして用材にはならない低品質な材(C材)をいっしょに伐採搬出してくる、ということだ。従来でもC材の需要として木質チップがあり、これはトンあたり3,000円程度の価格で買い取られている。それに見合わなければ切り捨てられて林の中に残されてきた。これが発電所でトンあたり7,500円で売れるようになれば、搬出できるC材量は増えると見込まれる。
しかしながら、A、B材に対するC材の割合は決まっていて、せいぜい全体の3割程度だろうから、いくらC材需要があったとしても、現在の出材量を大幅に増やすというわけにはいかないだろう。最大で3割増しになる程度であろう。とすれば、最大で年間500トンとかそれぐらいであって、年間必要量5.5万トンに比べれば無視できるような量だ。
一方、松阪市は三重県内で最大の森林面積をほこる。その76%は人工林で、その面積は約3万ha。そこで毎年成長する材は、100万トンというようなオーダーの数字である。その状況で、毎年2000トン程度しか利用できていないということだ。間伐の手が届いているのは3万haのうちのごくわずかだろう。残された膨大な面積の人工林の間伐をどうすすめるのか。その間伐材を建築用材としてどう活用するのか。また、日本の人工林は林齢構成がかたよっていて若い林がまったくない。間伐遅れで用材生産としてはもう期待できない林は皆伐・新植して森林を若返らせることができるか。そういう発想と計画づくりが求められるところである。
そこまで考えると、問題は日本の都市でいかに地域の木材を利用して建物を建てたり、内装をやったり、街区に利用するか、という「都市の木質化」という課題に帰着する。また、実際に林業に携わる若い世代をいかにいなかに呼び込むかという、過疎問題への取り組みとしての移住・定住の課題に帰着する。木質バイオマス発電所が地域にできようができまいが、取り組むべき課題はいっしょである。
逆に木質バイオマス発電所の立場から考えると、結局建築用材としての日本の材の需要が伸びないかぎり、燃料材は集まらないということになる。松阪一か所の発電所の燃料さえ周囲10府県から調達しなければならないというのに、となりの多気町さらには津市にも同様な規模の木質バイオマス発電所の計画がある。FITができたからといって、突然日本のスギやヒノキの建築用材としての需要が高まることはあり得ないので、燃料材が調達できず、発電所が運転できないということになりかねない。木質バイオマス発電はきわめてリスクの高い事業と言わざるを得ない。
地域の林業や山間地域を盛り立てるということについて、FITに過大な期待は禁物ということだろう。今回の調査で分かったことは、やるべきことを地道にやっていくということが大切という、ごく当たり前のことであった。