ホームセンターからのお知らせイベントモンゴル国立大学・名古屋大学レジリエンス共同研究センター第3回プレオープンシンポジウム(終了しました)
モンゴル国立大学と名古屋大学は、レジリエンス共同研究センターを開設するための準備を進めています。その一環として、第3回プレオープンシンポジウムが以下のとおり開催されました。
「日本・モンゴル国際共同研究の展望-レジリエンスに関して何を解明し何を学びあうべきか-」
日時:2015年11月20日(金) 10:30~15:45
場所:名古屋大学環境総合館1階レクチャーホール
使用言語:日本語(モンゴル語講演の際は日本語通訳あり)
開会挨拶では、林良嗣・名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長より、2016年2月にモンゴル国立大学・名古屋大学レジリエンス共同研究センターの開所式が行われる予定であること、また途上国と先進国、農村と都市が共に発展することで始めて持続可能な発展が達成されるという趣旨で共発展センターの名前がつけられていることが説明されました。また持続性学、安全・安心学が環境学研究科で分野横断の梁となる概念であり、それぞれがサステイナビリティとレジリエンスに対応し、モンゴルを対象としたレジリエンス研究がこれまで行われてきたこと、レジリエンス研究の対象分野をさらに広げていくことが重要であるとの認識が示されました。
基調講演の第一として、城所卓雄・名古屋大学特任教授、前モンゴル駐在日本国特命全権大使からは「モンゴル国の現状と日本・モンゴル両国関係のあり方」についてお話がありました。モンゴル国の現状に関して、牧畜国家から資源国家への移行、輸出対象国から見える傾向、バランス外交、日本と比較してのモンゴル国の特徴、そしてモンゴル人の特徴について解説があり、その後、日本・モンゴル関係のあり方について、信頼関係の深さと日本への期待の大きさが語られました。
基調講演の第二としては、スフバートル・モンゴル国立民族歴史博物館長より、モンゴルにおける博物館の歴史的変遷と今後の役割についてお話がありました。特に、1924年に最初の国立博物館が設立されて以来のモンゴルにおける博物館の発展、国立民族歴史博物館の役割と活動、そしてモンゴルの博物館が直面する課題について説明されました。そこでは伝統としての歴史・民族資料の保全と国際発信について歴史と現状が紹介されました。
続いてコメントとして、大路樹生・名古屋大学博物館長より「これからのモンゴル研究に期待すること」が発表されました。モンゴル科学技術大学との交流を通じて2009年よりフィールドリサーチセンターが設置され、地質学、環境科学の分野で研究が行われていること、日本人・モンゴル人双方を対象とした教育が行われていること、学生・市民向けのセミナーなどが開催されていることが紹介されました。今後、モンゴル人留学生を増やし、共同研究を推進し、モンゴルに帰国後リーダーとして活躍できる研究者を養成したいとの意欲が示されました。
午後の部の「モンゴル研究の魅力と課題」では、まず鈴木康弘・名古屋大学教授より、「モンゴルにおいてレジリエンスを考える意義」が報告されました。心理学、生態学で用いられたレジリエンスという概念が防災・災害に関しても用いられるようになったことが紹介され、激動のモンゴルにおけるレジリエントな社会づくりをレジリエンス共同研究センターで推進したいという趣旨が示されました。そのためにこれまでの研究成果の社会還元から始めることが示されました。
次いで、バトトルガ・モンゴル国立大学教授、名古屋大学客員教授からは、「モンゴル社会の変容とレジリエンス」と題して20世紀のモンゴルにおける独立、人民革命、社会主義化、そして民主化に至る歴史とモンゴル社会の特徴について説明がありました。また現在のモンゴルで起きている遊牧から都市への移住及び都市化された生活への移行、ゾド(寒雪害)などの自然災害、そして鉱山産業の重要性などについて触れられました。そのうえで共同研究センターでは、分野横断型(インターディプリナリーな)研究、さらには社会連携型(トランスディシプリナリーな)研究を推進し、モンゴル人自身で問題解決をしていくことを支援したいと述べました。
稲村哲也・放送大学教授、名古屋大学客員教授からは、「レジリエンスに関する文化人類学的考察」について講演がありました。2008年中国四川大地震を踏まえた災害と文化・社会との関係の深さ、ペルー古代社会及び先住民社会の多様性を通じたレジリエンスとサステイナビリティの高さ、2007年ペルー地震を例としたペルー現代社会の脆弱性、そしてモンゴル遊牧社会のサステイナビリティとレジリエンスについて、具体的な事例を元に説明がありました。また、共同研究センターでは、地方にもある博物館を活用し、ウランバートルにしかない大学との連携によりモンゴルにおける遠隔教育の推進を行い、遊牧をしながら高等教育を受けられるようにする考えが示されました。
甲斐憲次・名古屋大学教授からは、「アジアダストと環境レジームシフト研究プロジェクトから」と題してモンゴル、中国、日本の3か国で進められている共同研究について話題提供がありました。地球温暖化と人間による開発行為によりモンゴルで環境レジームシフト(降水量の減少や森林の消滅)が起きているのではないか、という仮説を検証するため、モンゴル草原の脆弱性および持続可能性、バイオエアロゾルとしてのアジアダスト(黄砂)、及び環境レジームシフトのトリガーに関して行われている研究について紹介されました。
篠田雅人・名古屋大学教授からは、「遊牧はなぜ数千年も続いてきたか?災害学から考える」というタイトルでお話があり、遊牧生活の中で継承されてきた伝統知が持続可能性やレジリエンスの観点から科学的合理性があること、また伝統知と現代科学技術とをつなぐ中間技術、適正技術が国際研究協力で求められていることを具体例に基づいて示しました。乾燥地災害学の体系化プロジェクトからは、ゾドの際の家畜頭数あたりの草地面積を詳細に地域ごとに明らかにした地図を作成し、家畜を移動すべき地域を表した例を示しました。共同研究センターでの研究上は、現地の人々と問いを共有することが重要であるとの指摘がありました。
その後の「討論とまとめ」では、会場より、永久凍土の融水を例として、共同研究センターでは水も研究テーマに取り上げてほしい、モンゴルの遊牧や農業生産は持続可能とはいえない面があり、伝統知を用いた持続可能な農牧業への転換が必要である、草原を劣化させない遊牧を研究する上では社会・現地に人々との連携が必要であり、どのように合意形成するか自体が研究テーマとなる、レジリエントでサステイナブルな社会の構築は生産性の低下を招くのではないか、研究としては草原が失われるといったシナリオ予測を提示することが重要、遊牧社会に対する国際協力の際には伝統知を考慮したソフト面での協力も重要、などの意見が出されました。
プログラム:
開会挨拶:林良嗣(名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長)
[基調講演](10:40~)
(1)城所卓雄(名古屋大学特任教授、前モンゴル駐在日本国特命全権大使、モンゴル国立大学顧問)
「モンゴル国の現状と日本・モンゴル両国関係のあり方」
(2)スフバートル(モンゴル国立民族歴史博物館館長)
「モンゴルにおける博物館の歴史的変遷と今後の役割」(逐次通訳あり)
[コメント](11:45~)
大路樹生(名古屋大学博物館長)「これからのモンゴル研究に期待すること」
[モンゴル研究の魅力と課題] (13:00~)
講演者:スヘー・バトトルガ(モンゴル国立大学)、稲村哲也(放送大学)
鈴木康弘・大路樹生・甲斐憲次・篠田雅人(名古屋大学)
[討論とまとめ] 今後の共同研究の方向性-レジリエンスに関して何を解明し何を学び合うべきか-
問い合わせ先:鈴木(ysz_at_nagoya-u.jp)