ホームセンターからのお知らせイベントアジア交通セミナー開催(報告)
共発展センターでは、国際連合地域開発センター(UNCRD)との共催で、以下のとおりアジア交通セミナーを開催しました。
(UNCRDホームページにおける掲載内容はこちら)
開会
林良嗣・持続的共発展教育研究センター長による挨拶、講演者の略歴紹介
C.R.C. モハンティ氏(国際連合地域開発センター(UNCRD)環境プログラムコーディネーター/エキスパート)
"Asian Environmentally Sustainable Transport (EST) Initiative and Its Relevance in Post-2015 Development Context"
(アジアにおけるESTイニシアティブと2015年以降の開発の妥当性)
講演趣旨:
UNCRDが日本国環境省と共同で設立した「アジアESTフォーラム」は、交通政策における環境的持続可能性、経済効率性、そして社会包摂性を重視し、社会のすべての階層の人々に平等に交通へのアクセスを提供できるような仕組みづくりを目指しています。2030年までに世界中で41の"メガシティ"と呼ばれる大都市が生まれ、世界の自然資源の約70%を消費、二酸化炭素(CO2)排出量の約75%を排出し、地球上の約75%の人々がこれらのメガシティで生活すると推測されています。このような大都市がもたらす様々な問題に対処するために、より持続可能な交通システムの管理体制の構築が急務です。
アジアESTフォーラムは、アジア各国の交通・環境関連省庁相互の連携とともに、国境を越えたより持続的な交通政策の推進のために各国の連携を促す、重要な国際会議です。2014年11月にスリランカで開催された第8回フォーラムでは、「アジアにおける低炭素交通促進に向けたコロンボ宣言」が採択され、新たに社会包摂性などの社会的側面にスポットを当てました。交通分野は、安定的な食料供給や母体保全などの社会問題にも影響があり、多くの途上国で「スマートシティ構想」や資源効率性の高い社会づくりなどとともに関心が高まっていますが、一方で、交通と土地利用計画の導入における統合・親和性の問題や財政問題など、多くのアジア諸国が課題を抱えています。
こうした中、各国の交通当局者は、都市の交通システム構築に際して、いかにして(車ではなく)"人"を中心に据えた都市づくりができるか、ということに着目する必要があります。アジアESTフォーラムでは、名古屋大学の林教授が紹介した、2011年東日本大震災後の日本の先進的な交通システムの回復力の高さが注目を集め、レジリエンス(強靭性・回復力)についての議論が活発に行われています。ESTフォーラムとしても、災害への備えを事前に交通整備計画に盛り込むことを推進するなど、日本の経験を生かそうという取り組みを進めています。
ハイシャオ・パン教授(中国・トンジー大学、世界交通学会2016上海大会実行委員長)
"History and Future Plan of Transport in China" (中国における交通の発展史と今後の展開)
講演趣旨:
交通は多くの社会的・経済的行動の触媒となるものです。中国では、インフラ不足による交通量の増大と渋滞、公害など、長年多くの問題を抱えています。経済状況の改善とともに生産性が向上、雇用が促進し、その結果として都市部の拡大が起こりました。北京では、都市中心部と周縁の小地域とを繋ぐ道路がなく、都市が拡大するにつれ走行距離も伸び、交通開発計画が急務となりました。集中的に投資された結果、長い年月をかけて都市の道路域は増加しました。上海では、内輪道路をまず作り、それから外輪を作ってそれらを繋ぐ道路もできましたが、それだけでは足りなくなり、中間点にもうひとつの輪を作りました。結果的には、最初に作られた内輪道路が最も交通渋滞の激しい道路となってしまいましたが、高架式道路による都市中心部の道路ネットワークの構築や都市の景観の改善、夜間のイルミネーションなども導入されました。
公共交通のシェアを20-30%程度まで上げることが推進されていますが、小・中規模都市では却って非効率の場合があります。こうした都市ではバス渋滞がしばしば発生しており、これを緩和するためには政策だけでなく技術も必要です。例えば、カンミンなどの小規模都市ではバスレーンが導入され、これにより公共交通シェアが8%から15%に一気に倍増するなどの効果がありましたが、多くの小・中規模都市では公共交通利用は人口の約30%程度に留まり、人々の関心が集まりません。バス停はもはや集会の場と化しており、むしろ公共自転車の方が有効かも知れません。また、中国ではすべての都市は車を中心に設計されているため、政策の転換が必要です。グリーンな交通、モーターに依らない交通や公共交通、サービスや技術の改善など、多くの課題が残されています。
北京で初の高速バス輸送システム(Bus Rapid Transit (BRT))が導入されましたが、場所を取るため、メトロ(地下鉄)への関心が高いようです。BRTは長距離通勤などには良いのですが、短距離移動には向いていません。タクシーにもサービス向上が求められていますが、機能性と運行管理の改善が先決です。列車輸送については、他の交通セクターから隔離された場所に位置しているため、駅などの統合・ターミナル化やインフラ整備のための資金問題が挙げられています。また、都市間および都市内交通の改善も必要で、高速電車による移動時間の削減や都市中心部との接続の必要性が指摘されています。状況は徐々に改善しており、長距離の都市間移動時間は減少しています。
中国における3つの特徴的なモデルは、1.PPP(Polluter Pays Principle、汚染者負担の原則)、2.中央政府優位の推進体制(Government dominated)、3.小規模の民間オペレーター(Small private operator)です。
ハイテクノロジーやクリーン自動車は徐々に浸透しています。ITSにより移動時間は短縮し、車両乗り入れ禁止デーや自転車デーなども導入され始めています。このようなソフト対策の導入などを取り入れた、バランスの取れた複数モーダルによるグリーン交通システムの構築が重要です。
議論:
・都市部の徒歩圏内の住民に対する優遇税制の導入などは、将来的長期的コストを考えれば妥当な政策ではないか。
・中国では毎年6,000kmの高速道路の建設が進んでおり、これは日本国内のすべての高速道路の総距離に匹敵する。また中国の高速鉄道(High Speed Rail (HSR))は12,000kmで、一人当たりの二酸化炭素排出量では最低で、物流の観点からは悪くないものの、時間あたりコストが掛かる。急速に発展する中国で、都市間の物流輸送における利益を最大化・最適化するためには、異なるモードによるコスト事情などを含めた"Land-use transport interactions"について考慮する必要がある。
・発展し続ける中国での安定した食糧供給(food security)の必要性について:インドでは、マハトマ・ガンディが提唱した「地方分権・分散型の都市と村(decentralization of both city and village)」が推進されてきたが、これにより、地方の人々は食料や仕事を得るために都市へ移住しなくても済む、それぞれが住む村々で自立できる、という考え方。このような都市計画と安定的な食糧供給の問題に、交通政策が貢献できる部分は大きいのではないか。効果的な社会的・経済的レジリエンスということについて、私たちは考え直す時期に来ているのではないか。
(参考)
題目 Title: アジア交通セミナー Asia Transport Seminar
日時 Date/Time: 2014年12月11日(木)14:00-16:00 14:00-16:00 11(Thu) December, 2014
場所 Venue: 名古屋大学東山キャンパス 環境総合館3階演習室2
Seminar room2, 3rd floor, Graduate School of Enviromental Studies, Nagoya University
言語 Language: 英語(通訳なし) English
主催 Organizer: 名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター
Education and Research Center for Sustainable Co-Development, Nagoya University
共催 Co-organizer: 国際連合地域開発センター United Nations Centre for Regional Development (UNCRD)
※このセミナーは、中日本高速道路株式会社との共同研究「QOL指標を用いた新たな事業評価手法に関する研究」の一環として行われたものです。
プログラム Program:
14:00-14:05 Opening Remarks (Yoshitsugu HAYASHI, Nagoya University)
14:05-14:35 Lecture (Choudhury Rudra Charan Mohanty, UNCRD/ UN DESA)
Asian Environmentally Sustainable Transport (EST) Initiative and Its Relevance in Post-2015 Development Context
(アジアにおけるESTイニシアティブと2015年以降の開発の妥当性)
14:35-15:35 Invited Lecture (Haixiao PAN, Tongji University)
Historical development and future plan of Transport in China
(中国における交通の発展史と今後の展開)
15:35-16:00 Discussion
講演者プロフィール Profile:
Haixiao PAN
PhD (Tongji University), Professor and Director of Land Use-Transport Studies in the Department of Urban Planning, The College of Architecture and Urban Planning.
His major research interest is in land use and transportation planning. He has been Director of Land Use/Transport Studies, in the Department of Urban Planning, Tongji University since 1996. He has been a Board Member of Shanghai Urban Economics Institute and holds a Diploma in Planning from the University of Sheffield, UK. Pan's recent work includes major master planning and transportation planning exercises including: The Impact of the China Coastal Freeway on the Development of Shanghai, The Integration of Land Use and Transport Planning System Study, the Master Plan of Laiwu City in Shandong Province and the Regulatory Plan of the New District. He has also produced Urban Transportation Plans of Yueqing City (Zhejiang Province), Linan City (Zhejiang Province), Shaoxing City, the Baoshan New District of Shanghai and the Qingpu District of Shanghai.
Choudhury Rudra Charan Mohanty
Environment Programme Coordinator/Expert, UNCRD/ UN DESA
His main responsibilities at UNCRD includes implementation of three major initiatives and processes at regional and global level- (i) promotion of Environmentally Sustainable Transport (EST) in Asia; (ii) promotion of 3R (reduce, reuse, recycle) in Asia and the Pacific; and (iii) International Partnership on Expanding Waste Management Service of Local Authorities (IPLA) - a Rio+20 partnership. Under these initiatives, he played significant role in realizing two high level policy forums in Asia and the Pacific (Regional EST Forum in Asia and Regional 3R Forum in Asia and the Pacific), and an International Partnership on Expanding Waste Management Service of Local Authorities (IPLA) - a Rio+20 partnership. Prior to his UNCRD/UN DESA assignment, he worked in the United Nations Environment Programme/Regional Resource Centre for Asia and the Pacific (UNEP/RRC. AP), Thailand, for ten years (1993-2003) as a Senior Programme Officer/Head of Environment Assessment and Reporting coordinating various national state of environment assessments and the Asia-Pacific segment of UNEP's flagship global environment assessment process, Global Environment Outlook -1, 2, and 3. He obtained his Bachelor of Science degree (with Honors) in Agricultural Engineering and Technology from the Orissa University of Agriculture and Technology, India, and a Master of Engineering degree from the School of Civil Engineering/Asian Institute of Technology (AIT), Thailand.