ホームセンターからのお知らせイベントFuture Earthの推進に関するワークショップ開催(終了しました)
2014年5月9日(金)12時45分から14時15分まで、名古屋大学減災館1階減災ホールにて、名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター主催、名古屋大学地球生命圏研究機構共催で、「Future Earthの推進に関するワークショップ」が開催されました。本ワークショップは、同日15時から同会場で開催された持続的共発展教育研究センター設立記念シンポジウムのプレイベントとして実施されました。
Future Earthは、国際科学会議(ICSU)が国連環境計画(UNEP)、国連大学(UNU)、国際社会科学協議会(ISSC)および有力国の研究資金配分機関で構成するベルモントフォーラム(BF)との連携で進めている統合的地球環境変化研究プログラムであり、研究者コミュニティ以外のステークホルダーとの協働を通して、地域から地球全体の環境保全と持続可能性を追求しています(日本学術会議解説)。
この国際的な研究枠組みであるFuture Earthに関して、推進の現状を把握し、参加の仕方を議論することを目的として、特に教育・人材育成の側面に焦点を当てながら、以下のようにワークショップを実施しました。
始めに進行係の神沢博名古屋大学教授によりワークショップ開始が告げられた後、山口靖名古屋大学教授・地球生命圏研究機構長によりワークショップ開催の趣旨が説明されました。また、21世紀COEプログラム「太陽・地球・生命圏相互作用系の変動学」を経て地球生命圏研究機構が設立され、さらにグローバルCOEプログラム「地球学から基礎・臨床環境学への展開」を経て環境学研究科附属持続的共発展教育研究センターの設立に繋がっている背景の説明がありました。そして、持続的共発展教育研究センターと地球生命圏研究機構が密接に連携してFuture Earthへのアウトリーチ活動を行うことが示されました。
続いて、安成哲三総合地球環境学研究所長より、「Future Earthの国内外での推進の状況」について講演が行われました。冒頭、Future Earthは地球環境変化に関する国際的な研究プログラムとして2013年に正式に発足し、10年計画で進められているものであるが、実際にはもっと時間がかかる挑戦的な内容であることが指摘されました。続いて人類起源の二酸化炭素排出とそれにともなう気候変動の可能性について言及し、人類活動が地球生命圏への外力として地球環境変化を引き起こしていると同時に、その変化を理解する人類の知の蓄積も進んでいる中で、science for societyとして地球環境がどうなるのか、どうするのかに答えるのがFuture Earthであると説明がありました。人類の存在によって地球環境変化が引き起こされる現代は地質学的にAnthropocene(中国語で人類世、日本語で人新世)と呼ばれ、それ以前のHolocene(完新世)とは区別されるべきものであり、その中で科学はもはや科学のみで存在するものでなく社会とともに実施されるものになってきたと指摘されました。また議論の余地があるものの地球の限界として生物多様性の減少、気候変動、窒素循環については不可逆的な変化を引き起こしているとする考えが紹介されました。
地球環境変化に関する国際的な研究プログラムには「地球圏・⽣物圏国際協同研究計画(IGBP)」、「地球環境変化の⼈間的側⾯国際研究計画(IHDP)」、「⽣物多様性科学国際協同計画(DIVERSITAS)」、及び「世界気候研究計画(WCRP)」の4つがあり、2002年からは地球システム科学パートナーシップ(ESSP)として統合的に実施されてきたが、2010年の評価で、科学としての成果は出ているが環境は良くなっていないという反省がなされ、問題解決への科学の貢献を重視すべく、国際科学会議(ICSU)や国際社会科学協議会(ISSC)などによってFuture Earthが準備されたという説明が行われました。現在、国連環境計画(UNEP)、国連大学(UNU)、国連教育科学文化機関(UNESCO)という国連機関が加わっているが、将来、国連世界食糧計画(WFP)や国連食糧農業機関(FAO)も加わることが重要だとの指摘がありました。また、Future Earthには有力国の研究資金配分機関で構成するベルモントフォーラム(BF)が加わっており、プログラムを推進していることが説明されました。また、Future Earthの研究テーマとして、Dynamic Planet(地球環境変化の理解と予測)、Global Development(人類への影響評価と最適環境利用の検討)、そしてTransformation towards Sustainability(持続可能な社会への転換への方策検討)の3つがあることが紹介されました。同時に、日本にとってはアジアにおけるFuture Earthの展開を推進することが重要であると指摘されました。
続いて、林良嗣名古屋大学教授・環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長からは、「日本学術会議におけるFuture Earth対応の教育・人材育成の推進の状況」について報告がありました。日本学術会議は、Future Earth対応の教育・人材育成に関して、現状評価・問題点の分析結果及び今後の推進方策の提言を発表する予定であることが紹介され、具体的には、初等中等教育、高等教育、及び生涯学習・地域内連携の3つの分野に関して現在行われている議論が紹介されました。初等中等教育に関しては、地域社会の関与による異なる年代の交流促進という提案が示されました。高等教育に関しては、Future Earthの教育・人材育成に関する世界事務局に対して日本が立候補しているが、国内の拠点機関がネットワークを形成する必要があること、また日本だけでなくグローバルな貢献を行う必要があることが紹介されました。さらに、生涯学習・地域内連携に関しては、科学館・博物館を使った人材育成などの提案が説明されました。
引き続き、竹内恒夫名古屋大学教授(持続的共発展教育研究センター兼任)より、「地球憲章やESDなどからみたFuture Earth」について報告がありました。冒頭、日本のFuture Earthが持続可能性を支える研究人材の育成を一つの柱として議論されていることから、持続可能な開発のための教育(ESD)と関連する旨が指摘されました。竹内教授は、持続可能な発展(SD)概念の歴史的発展と地球憲章(Earth Charter)の概要を概説したのち、国連持続可能な開発のための教育の10年(UNDESD)の2009年UNESCO中間年会合のESDのキーワードとして、地球憲章の「価値・知識から手腕(skills)・技能(competencies)にいたる」という枠組みが活用されたことを説明しました。そして、本年11月に愛知/名古屋でESDユネスコ世界会議が開催されることが紹介されました。
続いて、福井弘道中部大学教授・中部高等学術研究所副所長・国際GISセンター長より、「Future Earthにおけるデジタルアース」と題して報告がありました。その中で、デジタルアースによって地球環境情報を提示することで新しいものの見方や価値観を提供し、Future Earthの議論のプラットフォームとして活用できるかという問題意識が提示されました。また、背景として、米国においてアル・ゴア副大統領がデジタルアースビジョンを提示し、研究者と市民による共同実験室としてデジタルアースが提案されたこと、またクリントン政権下で、アメリカ航空宇宙局(NASA)にデジタルアース室が設置されたことが紹介されました。デジタルアースが可能なこととしてデータだけでなくアプリケーションも共有し、意思決定を支援することが挙げられ、ある施策が行われた場合と行われない場合の影響に違いについての予測比較の事例が紹介されました。Future Earthにおいても、科学的に不確実で意見も多様な課題に関して根拠に基づいた議論を行うためにデジタルアースを活用できるのではないかと提案されました。
以上の報告を受けて、高瀬千賀子国連地域開発センター長よりコメントがありました。まず、国連の持続可能な発展に関する議論を見てきた者として、科学に基づく議論と政策決定が重要であると考えており、国連でも「政策形成のための科学」、「科学と政策との橋渡し」が何度も強調されていることから、Future Earthという科学者側の動きを歓迎するという発言がありました。また、国連ではMDGs(ミレニアム開発目標)のような「途上国のための開発」からSDGs(持続可能な開発目標)という「地球社会のための開発」へと討議の対象がより広がってきており、High Level Policy Forumも設置されていることから、科学からのインプットが行われ、科学と政策との対話が進むことが期待されると指摘されました。
引き続いて、フロアとの質疑応答が行われました。「Future Earthが進めるトランスディシプリナリー(社会との協働型の)研究の推進にあたって具体的なプロジェクトが既に存在するのか」という質問に対しては、安成所長より「現在、Future Earthのホームページで研究候補分野の優先度に対する投票を公開で行っており、優先順位に応じて研究内容を公募する予定であること、ただし地域ごとに優先順位は異なりうる」との回答がありました。「Future Earthでデータの生産と蓄積は可能と思うが、それを行政などで活用する道筋は出来ているのか」という質問に対しては、安成所長より「まだない。これから作る。社会にとっての問題の重要性や優先順位は研究者の考えと異なりうることから、社会との対話の仕方も、スピーカーや研究者中心でない新たな形が必要で、丸テーブルを囲んだ対等な立場でのフランクな話し合いやフィールド見学などが有用ではないかと感じる」との回答がありました。さらに、「『問題解決型の地球科学』としては既に科学技術振興機構(JST)/国際協力機構(JICA)によるSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力)があると思うが、それら既存の活動との関係はどうなっているのか」という質問に対しては、安成所長より「リソースが少ないことから既存の活動をFuture Earth対応として拡充することを考えたい。また日本と特定途上国の二国間協力だけでなく多国間協力に変えていくことも考えたい」との回答がありました。最後に、「『触れる地球』など、初等中等教育や科学館・博物館でデジタルアースを活用する可能性があると思うが」という質問に対して、福井教授より「活用の幅は広い。デジタルアースでは不確実性のある予測モデルも利用できる。Google Earthに乗せるアプリケーションなどがあるがもっと共通性の高い情報基盤を教育研究で使えるようにしたい」との回答がありました。
=====プログラム=====
進行係:神沢 博(名古屋大学教授・環境学研究科地球環境科学専攻)
趣旨説明(5分):山口 靖(名古屋大学教授・地球生命圏研究機構長、環境学研究科地球環境科学専攻)
・安成 哲三(総合地球環境学研究所長)
Future Earthの国内外での推進の状況(30分)
・林 良嗣(名古屋大学大学院・環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長)
日本学術会議におけるFuture Earth対応の教育・人材育成の推進の状況(10分)
・竹内 恒夫(名古屋大学大学院・環境学研究科社会環境学専攻、持続的共発展教育研究センター兼任)
地球憲章や持続可能な開発のための教育(ESD)などからみたFuture Earth(10分)
・福井 弘道(中部大学教授・中部高等学術研究所副所長、国際GISセンター長)
Future Earthにおけるデジタルアース(10分)
・高瀬 千賀子(国連地域開発センター長)
コメント(5分)
・質疑・議論(20分)