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センターからのお知らせ

2014年04月09日 持続的共発展教育研究センター設立記念シンポジウム開催(終了しました)

名古屋大学大学院環境学研究科附属

持続的共発展教育研究センター設立記念シンポジウム

「地球規模・地域課題解決に向けたグローバル人材育成と大学社会連携」

1.はじめに

 平成26年5月9日(金)15時から17時45分まで、名古屋大学減災館1階減災ホールにて、名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター主催、名古屋大学減災連携研究センター共催で、名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター設立記念シンポジウム「地球規模・地域課題解決に向けたグローバル人材育成と大学社会連携」が開催されました。

2.挨拶

 まず、司会の高野雅夫名古屋大学大学院環境学研究科教授・持続的共発展教育研究センター事務局長より、シンポジウム開会が宣言され、続いて主催者を代表して久野覚名古屋大学大学院環境学研究科長より挨拶がありました。久野研究科長は、来賓及びパネリストの方々のシンポジウム参加に対して謝意を述べた後、本年4月、環境学研究科に附属持続的共発展教育研究センター(共発展センター)が設置され、特に共発展センターには臨床環境学コンサルティングファーム部門があることを報告しました。従来、大学がコンサルティング事務所を持ち、利害関係者と一緒に問題解決を行っていくことは可能だと考えてきたが、この構想を推進する教員が現れ、総長の支援も得られ、自立的運営を目指して設置することとなったことが説明されました。共発展センターを通じて、大学の枠をはみ出して社会貢献するとともに、学生の実践教育を行っていきたいという抱負が述べられました。

 続いて濵口道成名古屋大学総長より挨拶がありました。濵口総長は、来賓の浅田和伸文部科学省高等教育局高等教育企画課長、谷津龍太郎環境事務次官、三田敏雄中部経済連合会会長、及びパネリストの山中光茂松阪市長にシンポジウム出席のお礼を述べた後、「持続性」は研究者にとって大きなテーマとなっていることを指摘し、本年は愛知/名古屋で国連持続可能な開発のための教育の10年最終年会合が行われる年でもあり、共発展センターの設立は時宜を得たものであると述べました。また、環境学研究科などにより実施されてきた5研究科連携ESD(持続可能な開発のための教育)プログラム、国際環境人材育成プログラム、及びグローバルCOE(教育研究拠点)プログラム「地球学から基礎・臨床環境学への展開」に言及し、とりわけ医学に携わってきた総長にとって「基礎・臨床」という言葉は馴染み深いとして、大学において現業部門を持つ医学の特殊性と、環境学との関係性に触れました。従来の好奇心や興味に基づく学問研究でなく、研究に関する目標・理想を喚起し、理想・使命を若い世代に感じさせる現場を持つ「臨床環境学コンサルティングファーム」という実験的な構想に期待を表明しました。

 引き続き、浅田和伸文部科学省高等教育局高等教育企画課長より来賓挨拶がありました。国会対応中の吉田大輔高等教育局長に代わって参加している旨の説明の後、共発展センター設立に対する祝意が述べられました。現在は高等教育局で大学改革を進めているが、現場と教育行政とが繋がっているのかを自ら確認するため、平成21年から23年にかけて公立中学校長を志願して務めた経験に触れました。安倍総理の「大学力は国力そのもの」であるという言葉に言及しつつ、世界人口が増大する中で日本の若年・生産年齢人口は減少し、今後の日本の発展のあり方を考えるには教育の力、一人ひとりの力が重要となっている一方で、大学に対する社会の見方が厳しくなっていると述べました。これは社会からの大学に対する強い期待の表れでもあり、各大学で真剣に考える必要があると指摘しました。本シンポジウムのテーマである「グローバル人材育成」と「大学社会連携」は大学改革とも重なる課題であり、共発展センターの活動を通じて大学改革が進み、大学/大学院が学生にとってわくわくする場になっていくよう期待が述べられました。

 続いて谷津龍太郎環境事務次官より来賓挨拶がありました。共発展センター設立に対する祝意が述べられた後、濵口総長の挨拶にあった実学・現場の重要性に言及し、共発展センターにおけるコンサルティングファームの活動や松阪市との連携協定に基づく活動を通じて持続可能な地域づくりが進展することへの期待が表明されました。環境省の業務は、持続性のための解決策の提示と社会変革の推進であると述べ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で科学的知見をまとめUNFCCC(国連気候変動枠組み条約)で政策を決定する気候変動政策に見られるように、科学に立脚した環境政策を推進していることが説明されました。さらに、地球環境変動に関する国際研究枠組みであるFuture Earthの5つの国際事務局の1つに日本政府は立候補しており、文部科学省とともに環境省も支援しているという説明がありました。そして、環境省として、愛知県、名古屋市とともに、本年開催される国連ESD会合を成功させたいという表明がありました。最後に、共発展センターが名古屋にある国際機関である国際地域開発センターや地元自治体、産業界と連携して活動を展開することを期待し、環境省として応援する旨が述べられました。

 引き続き、三田敏雄中部経済連合会会長より来賓挨拶がありました。三田会長は、共発展センターの設立に対する祝意を述べた後、共発展センターのミッションは中部経済連合会(中経連)の「人づくり」のミッションに通ずるとし、「ものづくり」企業のイノベーションを実現するには「人づくり」が欠かせないと指摘しました。また、中経連では、産学連携をさらに推進するため、活動の場として「産学連携懇談会」を設置し、2012年から、各大学と協同して、次の時代を担う40才前後の若手の大学の先生と企業人との、異分野・異業種の人的ネットワークの形成を目的とした「Next30産学フォーラム」を開催していることが紹介されました。また、中経連が本年2月に「産学の連携による人材の育成」が重要であると提言したことに触れ、「人材育成部会」を新たに設置し、インターンシップの活性化や、産業界から大学への講師派遣等のあり方について検討を行い、産学連携による人材の育成に取り組んでいくことが説明され、共発展センターとも連携していきたいと表明されました。

3.持続的共発展教育研究センターの紹介

 主催者、総長、来賓からの挨拶に続いて、林良嗣名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター長より持続的共発展教育研究センターの紹介が行われました。

 まず、環境学研究科の成り立ちと理念に関して、理学、工学、人文社会科学を横断する2つの梁としての「安全・安心学」と「持続性学」を説明し、それぞれ減災連携研究センターと持続的共発展教育研究センターの設立に繋がっていることが説明されました。特に「持続性学」のビジョンとして診断から治療までを一貫して責任を担う「臨床環境学」の概念が紹介されました。そして、理学、工学、人文社会科学の連携のみならず、社会との連携を重視した活動を行うために持続的共発展教育研究センターが設立されたことが説明されました。同時に、持続可能な開発に関する理念を推進するために、MDGs/SDGs(ミレニアム開発目標/持続可能な開発目標)、Future Earth、地球憲章といった国際的枠組みを実践・展開するためには、大学によるグローバル人材育成と社会へのアウトリーチが必要であり、ESDプログラムによる教育と、臨床環境学コンサルティングファームにおける社会連携事業を通じて、地球規模課題から地域密着課題までを対象に貢献するのが共発展センターのミッションであるという説明が行われました。

 続いて、共発展センターの3つの部門(研究部門、教育部門、社会・政策連携部門)それぞれについて説明がありました。研究部門では研究実績の事例や国際的展開について説明がありました。教育部門では、大学院5研究科連携ESDプログラム、その名古屋大学リーディング大学院統合プログラムへの貢献、マスターコースにおける国際環境人材育成プログラム、およびドクターコースにおけるORT(On-site Research Training)について紹介がありました。特にORTについてはこれまでラオス、中国、日本(伊勢湾流域圏)で実施された俯瞰力と現場力を身につけるための研修の流れや診断から治療までの内容、研究を通じて得られた鍵概念、現地社会への還元や地元からの反響、博士課程学生による研究成果発表が詳しく紹介されました。社会・政策連携部門では、臨床環境学コンサルティングファームにおいて、持続可能な地域づくりのためのワンストップ相談窓口かつ連携活動の場になるだけでなく、臨床環境学を学ぶ学生のキャリア開発を目指すことが強調されました。

 最後に、名古屋大学建学の精神と最近の大学改革プランの求める内容が共発展センターのミッションと合致することを示し、社会変革のエンジンとなる研究科づくりにむけた抱負が表明されました。

4.パネルディスカッション

 持続的共発展教育研究センターの紹介ののち、休憩を挟んで「持続可能な発展への理念から実践へ―グローバル人材育成と大学社会連携のあり方―」をテーマとしてパネルディスカッションが行われました。コーディネーターは、神保重紀日経BPクリーンテック研究所副所長が務めました。

 まず始めに地球規模課題に対する国際的対応として、国連におけるMDGs/SDGsについて、高瀬千賀子国連地域開発センター長から説明がありました。持続可能な開発(SD)は1992年の国連リオサミットでのAgenda 21という成果文書で提唱され、その後2002年のヨハネスブルグ行動計画採択を経て、2012年の国連Rio+20会合でのThe Future We Wantという成果文書によってこれからSDを実践する段階となり、持続可能な開発目標(SDGs)を作るためにオープンワーキンググループで討議中であること、そして今年秋までに国連総会中に報告書が出される予定であることが解説されました。併せて、1990年代に国連で「開発」をテーマとする大規模な会議が13回開催され、2000年には国連総会でミレニアム宣言がなされるとともに2015年を目標年としたミレニアム開発目標(MDGs)が策定され、途上国の貧困削減が焦点となったこと、また2012年頃からPost-MDGsの議論が始まり、より包括的なSDGsがPost-MDGsの枠組みを作り、これまで並行して行われてきた議論が統合されるのではないかという観測が述べられました。国連において科学者と政策担当者との対話、科学と政策の間の橋渡しの重要性が繰り返し指摘されており、共発展センターの社会連携の機能は重要であり、また政策の現場は科学研究のモチベーションを与えうるものであるとの指摘がありました。

 続いて、地球規模課題に対するもう一つの国際的対応として、国際科学会議等によるFuture Earthについて、安成哲三総合地球環境学研究所長より説明がありました。2013年に開始された地球環境変化に関する国際的な研究プログラムであるFuture Earthは、2012年の国連会合の成果文書The Future We Wantに対する科学界の対応であると述べられました。それまで実施されてきた地球環境変化に関する4つの国際研究プログラムは研究としては成果を挙げたが環境問題の解決には結びついていないことが指摘され、地球社会の持続のための研究としてFuture Earthが開始されたこと、そして科学者組織だけでなく研究資金提供組織もプログラムに参加していることが説明されました。また現在国際事務局を公募中であり、日本も日本コンソーシアムとして立候補しており、コンソーシアムには総合地球環境学研究所、国立環境研究所、地球環境戦略研究機関のほか、名古屋大学(共発展センター)を含む大学が加わっていることが補足されました。最後に、Future Earthでは研究だけでなく人材育成も行っていくこと、日本の活動としてアジアへの貢献が重要であること、そして地域課題と地球規模課題とをつないで解決することを目指すために地方自治体と国際機関が連携する双方向の仕組みづくりをしていきたいことが述べられました。

 以上の発言を受けて、林共発展センター長より、SDGsのような国際的な枠組みと実践展開との距離を埋めるために共発展センターとしてローカル、グローバルの両方にアウトリーチしていきたいこと、またFuture Earthに関して事務局の一翼を担うとともにORTという手法に関して実践モデルとして事例を多数作り出し、出版予定の教科書とは別によいマニュアルも作りたいとの意向が示されました。

 続いて、地域課題への対応に関して、市民が担う持続可能なまちづくりの観点から山中光茂三重県松阪市長より発言がありました。冒頭、山中市長より、コミュニティ交通に関して加藤博和准教授から、公共施設再配置計画に関して谷口元特任教授から、バイオマス利用計画に関して高野雅夫教授から助言を得ていると同時に、グローバルCOEプログラムで学生が教育研究フィールドとして松阪市を対象としていることに感謝の意が述べられました。その上で、昨年11月の松阪市と環境学研究科との連携協定をもとに、大学には、発想・知識・メソッドでなく具体的な突破力を期待していると説明がありました。具体的には、現場でやれない理由を一番わかっているのは学者や市長・行政でなくそこの住民・市民であるから、大学の学生・教員には「こうするべきではないか」という理想や、理想を達成するための手段を提案するだけでなく、現場で理想が実現できない理由、提案された手段をやらない理由を分析し、さらに提案を実施した場合の弊害やマイナス面まで含めたシミュレーションをしていただくとありがたいという説明がありました。松阪市では、説明会や審議会、パブリックコメントだけでない、価値観の多様性を前提とし、一定の価値や正しさを押し付けない、市民との対話の場づくりを推進してきており、市民が責任と役割を担った選択をするために、研究者には様々な選択肢に対するシミュレーションを提示してほしいとの要望が示されました。

 以上の山中市長の発言を受けて、フロアの高野雅夫教授より、地域に大学の人間が行くと「また来たか」と言われ、地域からの大学の評価が低く、マイナスの評価をゼロにするところからやっていく必要があり、ORTを教員自身がやっていくことで学生用にモデルができてきたこと、住民が自律的に問題解決できる能力を身につけることが目標になること、「やらない理由」から研究をスタートすることで研究者が市民に敬意を表することになること、などがコメントとして述べられました。

 山中市長からは、一歩でも前に進み、問題解決に繋がるよう、行政、大学、市民それぞれが役割分担してできることをやっていきたいと発言がありました。

 引き続いて、グローバル人材育成について、浅田和伸文部科学省高等教育局高等教育企画課長より発言がありました。まずグローバル人材とは、語学力があり海外で活躍できる人材ではなく、グローバリゼーションの進展によって、自分と異なる考えの人と接して暮らしたり働いたりする機会が増えていることを踏まえ、まったく異なった文化・価値観の人々と物事を発展させることができ、相手の発言やその背景を理解でき、同時に自分の意見を表現したり折り合いをつけたりすることができる人材のことであるとの説明がありました。その上で、そうした力を身につけるために、文部科学省として日本人としてのアイデンティティ、幅広い教養、コミュニケーション力などといった様々な事柄を、初等中等教育から大学までで実施するような政策を展開しており、例としてスーパーハイスクール、国際バカロレア認定、スーバーグローバル大学、グローバル30、グローバル人材育成事業、博士課程リーディングプログラムなどが挙げられました。最後に、文部科学省のプログラム採択・資金支援を得て名古屋大学大学院環境学研究科で取り組んできたマスター、ドクターのプログラムの成果をどのように共発展センターで活用していくか、質問がありました。

 林共発展センター長より、外部資金によって実施された教育プログラムは資金援助がなくなると継続できない例があるが、環境学研究科で実施してきたNUGELP(国際環境人材育成プログラム、マスターコース)とグローバルCOE(ドクターコース)は全学及び研究科の支援により何とか継続しており、定着するように努力していること、また外部資金支援があるうちに新たな仕組みを定着させ、大学全体に広げることが重要という回答がありました。また、ORTでは、教員が十分に分野横断型研究に対処できていないなど学生が教員を叱る場面があり、学生が教員を教えているという逆転が起きており、こうした取り組みが大学を変えていくという指摘がありました。

 それに対して浅田課長より、文部科学省としても資金支援は立ち上げ支援であり、支援期間後の継続が前提で、支援期間中に支援後の自立的運営に向けた準備を始めてほしいという説明がありました。同様に国際化の取り組みも大学の中のある一部局だけが行っているケースが見受けられるが、これも全学的な仕組みの定着が必要との指摘がありました。

 引き続いて、持続可能な発展に関する政策・社会連携について、谷津龍太郎環境事務次官より発言がありました。まず、サステイナビリティ(持続性)に関する科学と政策には大変な距離があり、アイデアはあっても実現はどうするのかという問題が常にあることから、コンサルティングファームを通じた現場でのソリューションの実行に大いに期待するとともに、現場の問題意識を研究につなげる観点から、実社会と研究業界の間で人材が還流することが望ましいという指摘がありました。次に、サステイナビリティを考える切り口にはエネルギー、資源、水、生態系や、都市、インフラがあるが、自治体や地域の国際機関と連携して地域の実情に合ったソリューションを提供していくことへの期待が表明されました。さらに東日本大震災以降、環境省では災害廃棄物処理や除染なども管轄するようになり、「環境災害学」があってよいと考えるようになったこと、災害を明確に環境政策に取り入れるべきことが指摘されました。またORTはユニークなアプローチで具体的な取り組みとして珍しいとの評価がありました。最後に、共発展センターの「共」は何と何とのつながりを示すのか、質問がありました。

 林共発展センター長からは、途上国と先進国、農村と都市との共発展であるとの回答がありました。

 続いて、グローバル人材育成と産学連携に関する産業界からの要請について、伊藤範久中部経済連合会専務理事から発言がありました。人材育成に関しては、本年2月に中部経済連合会(中経連)が発表した提言「日本のものづくりの競争力再生」で、「若年労働者の学力低下、理工系離れ、新卒者の素養と企業が求める人材像が乖離している」といった点を現状の課題として指摘した上で、「学校教育の内容と方法の改革」などを大学に向けて提言し、企業に対しても「企業の人材ニーズを教育機関へ積極的に発信するここと」「産学連携による人材育成の推進」を提言していることが紹介されました。また、中経連には2011年10月に名古屋大学が入会したのを始めとして、現在18大学が入会しており、2012年4月には産学連携懇談会を立ち上げ、連携のあり方について産、学それぞれの立場から意見交換を行っていることが解説されました。特に産学連携懇談会の取り組みの一つとして、2年前から「Next30産学フォーラム」というこれからの30年を担う若手を対象とした産学の異業種・異分野の交流会を実施しており、文系理系問わず、様々な分野の准教授・助教クラスの先生から講演してもらう他、大学の見学会、企業からの話題提供、共通するテーマでグループディスカッションなど、産学がお互いを理解し、刺激し合う機会を提供していることが説明されました。また、奇数月に年6回開催されており、来る5月22日(木)に第13回を開催予定であることから参加が呼びかけられました。

 林共発展センター長からは、コンサルティングファームでは一つの専門分野だけでなく多分野にまたがる問題に対するソリューションを提供していきたいこと、まだ解決策が分かっていない新しいテーマや課題を対象として研究を行っていき、企業の若い人にも入ってもらい人材育成ができるとよいと考えている旨コメントがありました。また、谷津次官が社会人ドクターを取得したように、産業界としてもキャリアパスとしてドクターコースを考えられるとよいという指摘がありました。

 補足として、浅田課長からは、4年制大学の進学率が50%を越えており、昔のイメージだとずれが生じるため、大学に入ってくる学生の多様化に対応できておらず、学生の自発性の低下といった現実を踏まえる必要があること、そして大学の「今」を社会に発信・説明する必要があることが述べられました。

 パネルディスカッションの最後に、各パネリストより一言追加の発言を得ました。まず山中松阪市長からは、現場を見るなかで学生が先生を変えていくのは素晴らしいとの意見がありました。これが理想だ、これは無理だ、というソリューションどうしの対話、ダイアローグが必要だが、日本ではクローズドな対話、議論が多いため、これをオープンにしていきたいこと、松阪市では都合の悪い人をあえて入れて、責任と緊張を持ってオープンに対話と議論を行っていることが紹介されました。そして、この松阪市をフィールドとして使ってほしいと呼びかけました。

 高瀬国連地域開発センター長からは、国連地域開発センターでは、開発を皆で分かち合うための手法として統合型意思決定や参加型計画という手法が開発されてきており、これが持続可能な発展にも有効であること、また、共発展センターとミッションを共有して協力していきたい旨のコメントがありました。

 安成総合地球環境学研究所長は、co-designとco-productionというFuture Earthの特徴である研究者と社会が一緒になって研究を進めるという取り組みによって、研究者の価値観が変わり、社会も科学の見方が変わることが想定され、Future Earthは人を変えていくプロセスであるということを、自身も(学術誌の評価指標である)Impact Factorだけが価値ではないと思うようになったことを例に、述べました。

 浅田和伸文部科学省高等教育局高等教育企画課長からは、共発展センターが現場で活躍できる人材を輩出することを期待するとのコメントがありました。

 谷津環境事務次官からは、異文化コミュニケーションの重要性が指摘され、そのために共発展センター自身の国際化を図るのが早道であり、留学生の受け入れ、センター教員、研究員の国際化、及び国連地域開発センターでのインターンなど学生への異文化コミュニケーションの機会の提供という提案がありました。また政策的優先度の高い研究課題として、リスクコミュニケーション(安全だけでなく安心できるか)、地域での合意形成、南海トラフ地震等大規模災害時の大量災害瓦礫処理、そして生物多様性保全が挙げられました。

 伊藤中部経済連合会専務理事は、中部地域は日本最大のものづくり地域だがグローバル競争の進展により産業空洞化も起こっており以下にものづくりを続けられるかが課題であること、13年後にはリニアが開設されるがこれをどのように地域開発に活かすか、さらには地域を愛するグローバル人材を以下に育てられるかが課題であると指摘しました。

 林共発展センター長からは、以上のコメントを受けて、共発展センターとして、社会への発信、オープンな議論、SDへの実践的貢献、研究者の姿勢の転換、世界からの人材獲得、及び産学連携での人づくりを進めていくとの発言がありました。

 最後に、神保コーディネーターより共発展センターの新しい挑戦に対する期待が述べられ、パネルディスカッションを終了しました。続いて司会の高野教授よりシンポジウム閉会の宣言が行われ、シンポジウムを終了しました。

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(参考)

持続的共発展教育研究センターの設置について:

名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センターは、持続可能な社会づくりに関する学問分野間の連携研究、及び社会における様々なステークホルダーと連携したトランスディシプリナリー研究である臨床環境学を推進し、これらの研究に関わる実践活動を推進するための人材を育成するとともに、都市環境、交通等をはじめとする様々な分野をその対象として、国内外において持続的共発展を推進することを目的として2014年4月に設置されました。その開設にあたり、シンポジウムを開催いたします。

シンポジウム開催の趣旨:

経済開発に対して、気候変動にともなう災害の頻発、生物多様性の減少、水・大気汚染のグローバル化など地球規模の困難な課題がますます顕在化している。これに対して、途上国を対象とした国連ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)の実施を受けて、先進国を含めた持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)が議論されてきている。こうした世界規模での枠組み形成に対応して、現実の問題への対処のために、このようなグローバルな問題を大局的に理解しつつ国や地域の文化に根ざした解決を行いえるグローバル人材の育成と、政府のみならず企業、NPO、地域市民との社会連携の具体的ノウハウ形成が重要となってきている。

名古屋大学では、環境学研究科と生命農学研究科が連携して地球と社会に生じている病理の診断から治療までを体系的に扱う基礎・臨床環境学を構築してきた。本年は、ESD会合が名古屋にて開催されるが、本学では、上記2研究科に加えて、工学・国際開発・経済学研究科が連携して、持続的な発展にかかわる課題を名古屋大学大学院5研究科連携ESDプログラムとして統合した大学院レベルのリベラルアーツカリキュラムが昨年開始された。

このような時代背景を受けて、持続的共発展教育研究センターは、途上国・先進国、あるいは農村・都市が対立を超えて互いに連携し発展するための学理を探求し、グローバル人材教育を施す組織として発足した。このセンターは、2001年に発足した環境学研究科が、地球と社会の問題を解決するための2つの梁として掲げた「持続性学」と「安全・安心学」を継承・発展させたものである。

本シンポジウムでは、国際機関、政府、産業界をお招きして、この今日的な重要テーマについて議論を展開する。

プログラム

司会 高野雅夫 持続的共発展教育研究センター事務局長

挨拶  15:00 - 15:30

  久野 覚 名古屋大学大学院環境学研究科長

  濵口道成 名古屋大学総長

  浅田和伸  文部科学省高等教育局高等教育企画課長

  谷津龍太郎 環境事務次官

  三田敏雄  中部経済連合会会長

持続的共発展教育研究センターの紹介 15:30 - 15:50

  林良嗣 持続的共発展教育研究センター長

パネルディスカッション 16:00 - 17:45

  コーディネーター:神保重紀 日経BPクリーンテック研究所 副所長

  パネリスト(順不同):

    1、地球規模課題:国際的対応

     ①高瀬千賀子 国連地域開発センター長(視点:国連Post-MDGs/SDGs)

     ②安成哲三  総合地球環境学研究所長(視点:国際科学会議Future Earth)

    2、地域課題:市民が担う持続可能なまちづくり

     ③山中光茂  三重県松阪市長

    3、グローバル人材育成

     ④浅田和伸  文部科学省高等教育局高等教育企画課長

    4、政策・社会連携

     ⑤谷津龍太郎 環境事務次官

    5、産業界からの要請

     ⑥伊藤範久  中部経済連合会専務理事

    6、コメント

     ⑦林 良嗣  持続的共発展教育研究センター長