ホーム>センターからのお知らせ>持続可能性と巨大自然災害への対応力を考慮した都市空間構造の検討

センターからのお知らせ

2021年11月29日 持続可能性と巨大自然災害への対応力を考慮した都市空間構造の検討

(1)社会・自然環境の変化に対応した都市・地域戦略を見いだす

人口減少、高齢化が進展し、気候変動による自然災害の激甚化が予測されています。この状況において、都市・地域が持続するにはどのような戦略が求められるのでしょうか。加藤博和教授はそれを見いだすための評価システムの開発を行っており、その適用対象地域の1つとして2010年頃から松阪市の分析・評価を行ってきました。2017~19年度には、環境省の環境研究総合推進費「再生可能都市への転換戦略-気候変動と巨大自然災害にしなやかに対応するために-」(関西大学・徳島大学との共同研究)の代表者として評価システム構築を推進し、松阪市でもそれを用いた評価を実施しました。

(2)「環境」「社会」「防災」の各側面から都市・地域構造を評価するシステム

環境研究総合推進費プロジェクトで開発した都市・地域評価システムでは、CO2排出量からなる「環境指標」、長期的な利便性・快適性・安全安心からなる「社会指標」、災害の被害を軽減できる程度を示す「防災指標」を、都市・地域の長期変化を予測したうえで数十年にわたり評価することを可能としています。さらに、都市計画に伴う人口・施設の空間分布の変化を変更するなどといった施策が各種指標をどのように変化させるかも予測でき、都市計画の適切性を評価することができます。

松阪市においては、(1)法定の立地適正化計画で定めた居住誘導地域や都市機能誘導地域にそれぞれ対応する建物の新築を誘導、(2)津波や洪水などで大きな被害の恐れのある地域から他の地域へ新築を誘導、(3)(1)・(2)を合わせ防災と利便性を向上させるシナリオ、(4)現状の継続、という4つのシナリオから予測される2050年の状況を検討しました。

その結果、シナリオ(1)・(3)では社会指標が減少したものの、防災の向上などが明らかになりました。CO2排出量は、シナリオ(1)・(3)が(2)より低いという結果が得られました。

また、自然災害として台風による高潮被害を想定した場合、ソフト・ハードの様々な施策の組合せによって、災害後の社会指標低下を軽減し、回復速度を上げられることが推察されました。

(3)メリット・デメリットを明確化した戦略の活用へ

環境研究総合推進費プロジェクトで得られた松阪市に関する評価・分析結果については、2020年3月に松阪市内で市民に一般公開するシンポジウムで発表し、今後の街づくりのあり方について議論する機会とする予定でしたが、コロナウイルス感染拡大の影響で開催が無期延期となり、代わりに市役所の関連部局の担当者に結果を提示して意見交換を行いました。それを通じて、評価結果を関連部局で共有し、土地利用やインフラ整備の空間配置、気候変動の緩和・適応といった様々な施策を総合的に調整する必要性が確認されました。まさに、評価の有効な活用には部局の縦割り打破が求められ、その支援ができるシステムが構築できたと言えます。

参考文献

PARK Suil・加藤博和(2020):再生可能都市への転換戦略を検討できる都市・地域評価システムの開発, 日本環境共生学会学術大会発表論文集,Vol.23,pp32-41

加藤先生3.jpgのサムネイル画像加藤先生2.JPG