名古屋大学グローバルCOEプログラム 地球学から基礎・臨床環境学への展開

BCES

セミナー

SELIS-GCOE合同セミナー
熱帯泥炭林の現状と炭素収支

スケジュール

2010年10月5日(火)16:30-
環境総合館5階・輪講室516

講演者

平野高司 教授 (北海道大学 大学院農学研究院 環境資源学部門)

問い合わせ

佐藤永(COE特任准教授)

詳細

泥炭は、地下水位が高く保たれた嫌気的(還元)条件において植物遺体が分解せず、それらが数千年にわたって堆積して形成された有機質土壌であり、世界全体で総陸地面積の約3%に相当する400万km2に分布し、土壌炭素の約1/3を蓄積している。泥炭湿地は巨大な炭素貯蔵庫(プール)であるが、開発にともなう水文環境の悪化による泥炭の好気的分解と、火災による燃焼のため、泥炭湿地が大規模な二酸化炭素(CO2)発生源(ソース)になることが危惧されている。このような環境撹乱が最も顕著なのが東南アジアの熱帯泥炭地である。東南アジアには、27万km2の泥炭地が存在し、58GtCの土壌炭素を蓄積していると推定されている。低平地の泥炭地には湿地林が発達するが、年率1.5%の速度で伐採が進んでいる。撹乱が生じた泥炭地では、エルニーニョ年を中心に大規模な火災が発生することが多い。また気候モデルの将来予測によると、インドネシアの降水量が減少し、泥炭地の乾燥化が進むことが示唆されている。
われわれは、インドネシア中部カリマンタン州に広がる熱帯泥炭地に存在する1)未排水の熱帯泥炭林、2)排水された熱帯泥炭林、および3)排水された泥炭林の火災跡地、にそれぞれ観測用のタワーを建設し、微気象学的方法(渦相関法)を用いて、各生態系と大気との間で交換されるCO2量(NEP)を連続観測している。2004-2005年の1年間の測定結果をもとに、これらの3つの生態系における年間のCO2収支を評価すると、未排水の熱帯泥炭林も含めてすべての生態系でCO2を放出しているという結果となった。具体的な放出量は、未撹乱の熱帯泥炭林で約100gC m-2 yr-1、排水された熱帯泥炭林で約400 gC m-2 yr-1、伐採跡地で約800 gC m-2 yr-1であった。100gC m-2 yr-1の炭素放出は、1.4 mmyr-1の泥炭消失に相当する。未撹乱の森林がCO2の放出源であったのは、火災(野火)の煙で日射が遮られて樹木の光合成が低下したことが影響していると考えられる。また、排水された熱帯泥炭林でCO2放出量が大きいのは、地下水位の低下によって泥炭の好気的な分解が促進された結果であると考えられる。さらに、排水された火災跡地が非常に大きなCO2放出源であったのは、主に植生によるCO2の吸収が少なかったことによると考えられる。この地域では、排水後の1997年、2002年、2009年のエルニーニョ年に火災が発生し、現在、草本を中心とした植生の回復が進んでいる。植生の回復にともなって、CO2放出量が減少していくものと予想される。
 

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